PROJECT STORY

新たなフラッグシップモデルの
確立を目指して

近年、在宅時間の増加に伴い、自宅での生活の質を上げることが重要視されている。ソファやテーブルのような置き家具と違い、室内ドアやシューズボックス、化粧壁材、造作材といった内装材は簡単に取り替えることができない。そのため建材メーカーは、時代とともに変化するインテリアスタイルを注視しながら、生活者にとってのよりよい暮らしを実現させていく必要がある。そんななかEIDAIは、2020年11月に内装材の最上位グレード「グランマジェスト」を市場に送り出した。

MEMBER

<プロジェクトリーダー>

Akihisa Tsukamoto

内装システム事業部
内装商品部 企画開発課(課長)
1994年入社

<開発担当>

Shinnosuke Murakami

内装システム事業部
内装商品部 商品開発一課
2012年入社

<企画担当>

Ryo Hashida

内装システム事業部
内装商品部 商品開発一課
2017年入社

※掲載情報は取材当時のものです。

新製品を開発し、
市場を開拓する

EIDAIでは、普及グレードの内装材として、「Skism(スキスム)」シリーズを幅広い層に向け展開している。今回は、さらなる上質感を求めるユーザーに訴求するため、ハイエンド製品の品揃えを強化することになった。

新築住宅の着工数の減少や材料価格の高騰などの背景から、従来通り普及グレード製品を大量につくって大量に売るという戦略だけでは、競合他社との価格競争に巻き込まれ、いずれ立ち行かなくなってしまう。その一方で、高価格であったとしても自身のこだわりを満たせる製品を求める方々もいらっしゃることも事実。他社にはない質感やデザインの内装材を開発し市場を開拓することが、本プロジェクトの狙いである。

一般的に製造業では、品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)の3つの頭文字を並べたQCDのバランスが重要視されるが、ハイエンド製品ということで最高の品質が必要となる。加えて最高の品質を保ちながらコスト・納期との両立も必要であり、企画開発を行うだけではなく製造を担う協力業者とも製品コンセプトを共有し、強固な連携を図らなければならなかった。

当時入社2年目で本プロジェクトの企画担当に抜擢された橋田は、取り組むべきテーマの大きさに身震いがした、と語る。過去に経験してきたのは、ほとんどが建具単体での企画。新たなシリーズの立ち上げは分不相応な気がしたのだ。普及グレードの「Skism(スキスム)」との棲み分けはもちろん、鏡面仕上げが特徴的だった前身の最上位グレード「アルティモード」との差別化も求められる。全社を挙げた一大プロジェクトに大きな重圧がのしかかった。

ハイエンド製品に
ふさわしい素材とは

橋田の役割は、製品のラインナップやデザイン、色柄の構想を練ること。そして、入念な市場調査を実施したうえで価格設定を行うことである。ターゲット層に受け入れられ、所有することで誇りを感じてもらえるような内装材とは、どんなものなのだろう。彼はまず素材探しに奔走した。

インターネットでの情報収集に加え、取引先メーカーの担当者をつかまえてはヒアリング。住宅展示場にも足繁く通い、ハイエンド製品にふさわしい素材を求め続けた。ヒントになったのは、建具同様、住宅の中にあるキッチンの表面材である。天板が大理石というケースは今までもあったが、最近は石目調の表面材が流行っているらしい。これを建具に応用できないものかと、彼は考えた。

ほとんどの建具は、MDFと呼ばれる中密度繊維板に木目化粧シートを貼ったものだが、石目調のデザインがあってもおもしろいかもしれない。ただ、本物の石をスライスした素材では安定調達と加工品質が得られなかったため、検討に検討を重ねた結果、見た目や手触りが石そっくりの強化繊維セメント板が採用されることになった。

新たな最上位シリーズ「グランマジェスト」のコンセプトが、だんだんと固まってきた。より上質な空間を実現するため、クオリティの高い素材や金物の開発にとことんこだわる。天然木の風合いを基調とした「グレインエレメント」、石材や金属のような異素材の質感、触感を基調とした「ソリッドエレメント」の2種類をラインナップし、重厚感を演出する室内ドアのロングバーハンドル、一枚板のようなシューズボックスの連続木目扉など、唯一無二のアイテムを取り揃えることを目指した。

同じ方向を向き、
思いをひとつに

企画担当の橋田からバトンを受け取った開発担当の村上は、品質と価格のはざまで頭を悩ませた。重厚感のある室内ドアは、普及シリーズに比べ20%も厚い。厚みが増せば、当然重量も大きくなる。その重さに耐えられるだけの蝶番や戸車などの金物は規格にはなく、特注で手配する必要があった。ハイエンドを追求するのはいいが、あまりにコストがかかりすぎる。想定販売価格は「Skism(スキスム)」の約10倍に跳ね上がっていた。

住宅の中の温度や湿度は一定ではない。特に木質のドアは、湿気を吸ったり吐いたりするうちに反る性質がある。それによりドアの開閉がスムーズにできなくなるのは、ある程度仕方のないことなのである。しかし、このフラッグシップモデルである「グランマジェスト」では、一切の問題の流出および市場クレームを出してはいけない、と村上は心に誓った。

ラインナップのひとつ「グレインエレメント」は、ドアの表面材を折り曲げて鉄の芯材に挿し込むことで強度を高めている。なお、強度とともに無垢材の板戸のようなデザインが獲得できるこの製法ついては、EIDAIが特許を取得している。そして、耐荷重を調べるための、ドアの開閉運動を20万回繰り返す性能試験をパスし、どうにか製品化にこぎつけたのだった。

村上が橋田から受け取ったバトンはその後、製造を担う協力業者に引き継がれた。「グランマジェスト」の製品群はどれも加工が難しく、一筋縄ではいかない。そもそも、従来の木材と強化繊維セメント板とでは、加工の仕方がまったく違うのだ。手間と時間がかかるうえに、小さな不具合が大きなクレームにつながる可能性もある。説明し、交渉し、ときには説得することもあった。常に同じ方向を向き、思いをひとつにしなければならない。どこかでバトンが途切れてしまっては、この社運をかけたプロジェクトの成功はありえないのだから。

社内でのレビューのために設営された展示。 展示方法にもこだわり、社内でも高い評価が得られた

一歩リードの、
その先へ

今回の「グランマジェスト」のようなハイエンド製品を、中堅・大手クラスの建材メーカーが手がける事例はあまりない。比較的小規模な建具メーカーが、独自色を出すために、ごく限られた範囲で製造・販売するにとどまっている。これは前述したように、品質・コスト・納期のバランスの問題が大きいからなのだが、そういった意味でも今回のプロジェクトは非常にチャレンジングなものだったといえるだろう。

プロジェクトリーダーの塚本は、橋田と村上、この両名の奮闘を次のように振り返る。「企画担当の橋田は木目化粧シートのパターンを分析し、同じ色柄が隣り合うことのないようにデザインを工夫していた。極論すれば4枚の板の組み合わせを考えるだけのことなのだが、実は気の遠くなるような膨大な作業量で、その妥協のない姿勢に頭が下がる思いだった。また、村上は開発担当として数百ページにもおよぶ生産図面を作成していたが、切り貼りは一切なく、その一つひとつに彼の魂がこもっていたように思う。特に自分の後工程となる製造部門が理解しやすいように、細部まで丁寧につくっているのが印象的だった」

EPILOGUE

メンバーが心血を注いだ「グランマジェスト」は、EIDAIの新たなフラッグシップモデルとなる可能性を大いに秘めている。現時点で他の建材メーカーでは同等クラスの製品を展開していないため、ハイエンド製品ではEIDAIが一歩リードしている状況だ。ご採用いただいたお客様からは「他にはない重厚感があり、大変満足している」や、「細部までこだわった高級感があり良い製品だ」とのお声をいただいている。
しかし、製品価値はまだ一部の競合他社に知られている程度で、顧客であるビルダー様やその先のエンドユーザー様にまでは届いていない。「グランマジェスト」といえばEIDAI。あるいは、EIDAIといえば「グランマジェスト」。そのような認識を市場に浸透させるために、彼らの挑戦はこれからも続く。